【第2話】黄金のコインの秘密|誰が正解を知っているのか
黄金のコインの秘密 副題|カタツムリの言葉 第2話|誰が正解を知っているのか 『明日の午前中までに、もう一度修正していただけますでしょうか。』 期限は書かれていた。 しかし、何を直せばいいのかは書かれていなかった。 さらに深刻なのは、そのメールを送った丸山自身が、自分の押印した二千ページの契約書に記された提出期限が、当初の合意より二か月も早められていたことに、ようやく気づいたばかりだったということだ。 彩乃は、丸山に聞けと言った。 丸山は、彩乃に確認してほしいと言った。 誰も最終的な判断を下そうとしなかった。 それなのに、もし仕事が失敗したら、真っ先に責任を問われるのは誰だろう。 桜井美咲。 彼女はまだ、自分に迫りつつある危険の大きさを知らなかった。 正解を知らない人よりも恐ろしいのは、正解を決めるべき人が、何ひとつ決めようとしない瞬間だった。 三週間前。 火曜日、午前八時四十六分。 日本のある物流会社。 桜井美咲は出勤すると、すぐにパソコンを立ち上げた。 オフィスには、まだ空席が目立っていた。 廊下からは清掃用カートの音が聞こえ、窓際のデスクには朝の日差しが長く差し込んでいた。 いつもと変わらない朝だった。 しかし、美咲の視線は、パソコンの画面の一点に止まっていた。 昨夜、午後十時四十一分。 丸山恒一から届いたメールだった。 四度目の修正依頼。 『可能であれば、明日の午前中までに、もう一度修正していただけますでしょうか。』 美咲は、その一文をゆっくりと読み返した。 すでに何度も企画案を修正していた。 最初に渡された資料を整理するのに二日かかった。 第一稿を作成した。 修正依頼を受けて第二稿を送った。 再び修正依頼が届いた。 第三稿を作成した。 そして三度目の修正依頼に従い、必要な部分をさらに補っていた。 ところが昨夜、また修正してほしいというメールが届いたのだ。 美咲はメールを閉じ、業務記録を開いた。 企画案を送信した日付。 修正依頼を受けた日付。 修正した内容。 確認できていない事項。 すべて整理されていた。 彼女は昨夜作成し、下書き保存しておいた返信メールをもう一度確認した。 最終的に求めている事業の方向性。 具体的な修正箇所。 確定している業務範囲。 そして、実際の提出期限。 四つの質問だった。 美咲はしばらく考えた。 企画案をさらに修正すること自体は難しく...